寝具難民6万人だと

週刊文春2017/06/15の特集『保存版 快眠が人生を変える!』に医療ジャーナリスト長田昭二さんの記事『「理想の枕」の選び方・作り方』が載っている。記事は3ページ強。ページ数から言ってこの特集の目玉だ。目玉なのに問題が多い。

 

この記事は、16号整形外科という神奈川県相模原市淵野辺駅近くの国道16号線沿線沿にある医院(*1)の院長山田朱織医博の、まあ、提灯記事だ。

 

(*1 記事では16号整形外科を病院としているが、病床数ゼロのようなので病院ではない。)

 

長田昭二さんによると、山田朱織さんが言うには、体に合っていない枕などの寝具を使っているために不調を訴える人(「寝具難民」)がいる、その数は山田さんが診察しただけで6万人!!だとか。

適切な枕を選べば不定愁訴など様々な症状が改善するそうで、山田さんはこれに対応するため16号整形外科に枕外来も設けているし、別会社も作っている。

 

私は記事をここまで読んで長田さんには科学的精神が無いと判断した。長田さんは山田さんの言葉を鵜呑みにしているようだ。

 

私がそのように判断した理由は以下。

・6万人と書いているが母数は書かれていない。

・6万人は何年間の累積値なのか。

近頃100歳を超える医師がお亡くなりになった。この医師が珍しい病気の専門医だとしよう。1日4名の新たな患者を診察すとして1年250日として75年間なら7万5000人となる。

さて、現在の患者数は何人なのか?この医師が診療を始めた頃の患者さんで生きておられる方は少ないだろう。

また、接骨院での骨折者から骨折した人の数を推定すれば、それは過大になる。

 

次にこの記事で問題だと感じたのは以下。

体に合った枕を使えば、「「介護者が指一本でゴロンと転がせる」ほど、体位交換も楽になるという」と、伝文として書いてある。私は本当かと疑問に感じた。

記事には理想の枕の作り方が7枚の写真付きで説明されている。枕の硬さは、寝ている間の頭の高さの変動が最大5mmにおさまる硬さがなければならないのだそうだ。これは、私には嘘くさく思える。寝返りをうてば体は数センチ単位で動く。なので頭の高さも数ミリ変わるだろうからだ。長田さんがまともなライターなら、即、枕を作って寝て、「指一本でゴロンと転が」されてしまうか試してみるべきだった。もっとも、電話取材なら実験はできないが。(枕の作り方写真は山田朱織研究所に掲載されているものとは異なる。)

 

次の見出しは編集部がつけたもので、長田さんには責任はないかもしれない。

「「うつが解消することもある」」

本文は「睡眠姿勢の悪さから来る不定愁訴からうつ状態を引き起こしている人もいますが、枕を調節しただけでうつが解消することもあるのです」。山田医博はプラシーボ効果を考慮していないし、縁日の亀ではないが、うつが直る1日前だったのかもしれない(笑)。

更に、(効果が事実として)うつが解消するまでの期間も書かれていない。うつで悩む人が適切な治療を受ける妨げになりかねない見出しだ。