(新潮も)Jアラートに珍コメント 石破、佐藤優

週刊新潮2017/09/28の総選挙記事の一つでJアラートに触れている(p24)。

左翼はJアラートを鳴らして国民を脅して支持率を上げようとしているとか、いろいろ文句をつけている。

左翼より事情を知っていると思われる石破茂元防衛相は次のように話した(ことになっている)。

 

「どこに落ちるかわからないという警告の仕方、これは正しい情報の伝達だと思えない。」

 

ところで台風の気象予報図を思いだそう。台風の未来位置は先になるほど大きな円で示されている。未来になるほど予測の精度が落ちるからだ。

北朝鮮のミサイルの運動ベクトルの測定精度はどうだろう。発射を検出した時の精度は低い。時間をかければ精度は上がる。だが、その分、警報は遅れ、対応にかけられる時間が減る。安全サイドに立てば、日本に向っていると分った時点で警報を発するべきだ。ビルの火災警報はボヤでも全館に鳴り渡る。これが常識だ。

ミサイル発射時の精度は低いので予報円は大きくなる。(もしかしたらJアラートの欠陥なのかもしれないが)警報は県単位で出されるようだ。結果として警報円は一層大きくなる。

 

以上から、上のコメントは防衛相を経験した石破氏のコメントそのままとは考えにくい。

 

 

佐藤優氏はイスラエルの同様のシステムなら

1.「本当に危い時に“この場所の半径何キロ内に落ちます”という風にしか鳴らさないのです」と前置きし「政府も日本上空を通り過ぎることはわかっていたはずで、騒ぎ過ぎ」。

そして

2.「大気圏外なら、ロシアや中国の弾道ミサイルはしょっちゅう日本の上空を飛んでいます」

3.「Jアラートで警告すべきは、日本の領土領海内に落ちる時、あるいは日本の領空を侵犯する場合です」

「大気圏外は国際法上、領空じゃありません。政府がそこをよくわかっていないから、今回も“領域に侵入”などと発表し、後から訂正することになった。要するに能力が低いのです」

と言った(ことになっている)。

 

一つ一つ検討してみる。

1.イスラエルのシステム

テロリストがイスラエルに向けて発射する弾体はロケット弾、砲弾に、ほぼ、限られる。高価な大型のミサイルを保有しているのは国家に限られている。イスラエルに向けて大型のミサイルを発射したら、それは、誤射では済まない。国家間の全面戦争になりかねない。イスラエルは周辺国にイスラエル軍の精強さを骨身にしみるまで教育してきた。

 

ロケット弾や砲弾の射程は短い。

砲弾は発射とほぼ同時に着弾点はかなり正確に予想できる。

ロケット弾発射の動画(https://www.youtube.com/watch?v=ZK4X7uiKC5oの5:57から6:02)を見て見よう。5:57で最後のロケット弾が発射され、画面が移動、6:02に噴煙の画面になる。噴煙はほぼ同じ位置で途切れている。つまり、数秒でロケットエンジンの燃焼を終えているようだ。燃焼を終えたロケット弾の弾道はこれもほぼ正確に予想できる。

射程10kmのミサイルをイスラエル国境から5km離れたところから発射したとしよう。残りの飛距離は5kmなので、間違っても、100kmや200km先に落ちることは無い。だから、イスラエルのシステムは「半径何キロ内に落ちます」と警告できるのだ。

 

北朝鮮の場合に移る。

ゴム動力の模型飛行機の飛距離を予想してみよう。ゴムの巻き方が少なければすぐ落ちる。多ければ長く飛ぶ。模型飛行機が飛び立ったことを検出できても、ゴムの巻き数が分からなければ飛距離は予想できない。

ロケットの場合、エンジンの燃焼時間を任意に、あるいは故障で不随意に止められる、あるいは止まってしまう。飛翔距離は燃焼時間に依存するから、予想される落下範囲は広くなってしまう。

もし、一直線で長く飛ぶなら、検出した時の飛行方向に1度の誤差あれば、予想着地点は大きく誤る。

 

中長距離ミサイルの燃焼時間は数分に及ぶ。正確な予想を出そうとして燃焼が終わるまで待っていれば、先に書いたように、避難の時間は減ってしまう。

 

 

更に、北朝鮮製のミサイルには奥の手もある。いつ爆発するか、分からないのだ。実際、ミサイル実験失敗と見られた例も多い。無事燃焼を終えれば、弾道学に従って動くだけなので、予測は簡単なはずだ。だが、ミサイルなので爆薬が搭載されている。それが誤爆発してしまうかもしれない。多段式ミサイルの下の段の切り離しが失敗する可能性もある。その場合、燃え残りの燃料が。再燃焼して軌道を狂わすかもしれない。そう言う場合も考えて警報を出すのが親切と言うものだ。

 

2.ロシアや支那のミサイル

佐藤氏の「大気圏外なら、ロシアや中国の弾道ミサイルはしょっちゅう日本の上空を飛んでいます」は本当なのか?

私は報道に疎いので定かでは無いのだが、そういう事例を検索してもヒットしない。まして、日本上空を飛ぶようなものは。ロシアは広い。支那は侵略している地域を含めると広い。両国ともミサイル試験は国内で完結させているようだ。米露支は相互確証破壊で平和を保っている。敵国に向ってICBMを発射するような挑発は普通しない。

ロシアや支那が国外を飛翔するミサイルを発射するなら、事前通告をするだろう。また、北朝鮮のものより信頼性がある(と思われる)。

 

ところが北朝鮮は日本に自然通告しない。ましてや北朝鮮は日本に核を落としてやるとか平気で口にしている。その北朝鮮が事前に警告もせず、ミサイルを発射したなら開戦の可能性を疑わない方がおかしい。

 

 

3.領空

自治体向けの速報システムEm-Netで「わが国の領域に侵入し、領域を退去」と面知し、約3時後に「北海道地方上空を通過」と訂正した。どうやらこれは、石破元防衛相が、領域という言葉には領土、領海、領海をまとめて指す場合があり、領域侵入と言うと国家主権が犯されたと解されかねない、と文句つけ、訂正されたことを指すようだ(毎日新聞(https://mainichi.jp/articles/20170916/k00/00m/010/179000c)。もし、政府が、佐藤氏が言うように、大気圏外も領空だと政府が考えているとしたら、領域などという言葉は使わず、「領空侵犯」のように言うだろう。政府は「オレらの勢力圏を犯かしやがって」という気持ちを込めて領域という言葉を使ったのだろうと私は考える。

また、佐藤氏の領空の定義も怪しい。宇宙空間は領空ではない(これにも支那は異論を唱えるかもしれない)が、大気圏の定義が曖昧なのだ。北海道上空だと大気圏内の可能性があるのだ。