ウーマン村本らが利用する百田尚樹批判ファクトチェックを再チェック

ウーマンラッシュアワー村本大輔が次のtweetをした。

「あ、百田さんからのコメントでしたか、すいません。アホのネトウヨのコメントと間違えました。ナッシュ・レポートの事実に対しても返信お願いしますよ。

そしてよかったらこの記事書いてる記者や識者呼んで番組で討論しましょうよ。」

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大輔は果たして記事を批判的に読んだことがあるのだろうか。疑問だ。

 

(本稿は下記URLの記事に記載されているデータに基づく批判である。)

 

弁護士の楊井人文百田尚樹氏の発言のファクトチェックをしたと言って、次を結論とした。

「・百田尚樹氏“日米両政府が本土の反対運動を懸念し沖縄に基地を移転させたという事実はどこにもない” → 誤り」(『“本土の反対運動を懸念し沖縄に海兵隊移転”は本当?』blogos.com/article/329428/)

 

百田氏が言う「反対運動」とは何を指すのか?

発端となったのは石破茂氏の発言。上記記事に記載された沖縄タイムス経由の発言(*1)から「反米基地闘争」と解される。

 

(*1 「1950年代、反米基地闘争が燃えさかることを恐れた日本とアメリカが、当時まだアメリカの施政下にあった沖縄に多くの海兵隊の部隊を移したからだと聞いている」

石破氏が「聞いている」と伝聞として話していることに注意。

石破氏が反基地闘争ではなく、「反米」基地闘争と書いていることは興味深い。氏は「日本軍」基地なら闘争は燃えさからなかったとか、燃え盛っても問題にならなかったと示唆しているのかもしれない。さらに言うなら、反米基地闘争が反米闘争にならないか危惧したことを言外に漏らしたのかもしれない。)

 

本稿では、楊井人文の結論は誤り、もしくは、少なくとも誇張があることを示す。

 

私の結論は、

米軍は日本の主権回復、戦略状況、費用対効果等を見て沖縄へ軍を移動し、それに伴い沖縄の基地が拡張された、

だ。

 

記事を見ると、百田氏が「反対運動」と発言したためか、人文は「反対運動」と「反米基地闘争」、(反基地)「闘争」、「反基地運動」、「基地反対運動」を、恐らく恣意的に、ごっちゃにしている。

 

人文の論拠は次のようになっている。

「・1950年代、本土で基地反対運動が激化し、米軍基地が大幅に削除されたことは事実。

・同時期に沖縄では海兵隊が移転するなど米軍基地が拡張されたことも事実。」

この後、人文は論拠を細分化して証明しようとする。ただし、要因の寄与度を評価しようとはしない。つまり、基地反対運動の激化と米軍基地削減の因果関係を証明してはいない。

1.晩鐘が鳴った

2.日が沈んだ

と言う二つの事象から、晩鐘が日没の原因だと人文やウーマン村本のような結論を出す人は少ないだろう。

1.枯葉が一枚木の高いところにある。

2.幼児が枯葉に向かってふうと息を吹きかけた。

枯葉が地面に落ちたとして、息を吹きかけたことが落葉の原因と言えるのか。まともな人なら風が吹いていたかとか、どのくらい葉が枯れていたかを調べる。

 

1.新興暴力団が進出、組事務所を置き、抗争が激しくなった。

2.住民の事務所反対運動が起きた。

3.新興暴力団が抗争に負け、組事務所がなくなった。

これは、住民の勝利と言えるか?

 

人文の最初の細分は

「(1)まず、在日米軍の部隊・基地が本土から沖縄に移転した事実があるのか。」

これは岐阜や北富士演習場にいた海兵隊が「米領」沖縄へ移駐したなどの事実がある。また、「米領」沖縄の基地が拡張されたのも事実。

 

「(2) 次に、日米両政府は本土の基地反対運動を懸念して、本土の基地を削減したのかをみる。」

ここで人文は内灘闘争(1953)、浅間山妙義山反対闘争(1953~55)、ジラード事件(1957)、砂川闘争(1957)を例示して証明したことにしようとしている。

そして、

「米国は1954年に本土の5カ所の米空軍飛行場拡張計画を日本側に示していたが、反対運動が激化し、横田基地の拡張以外はすべて失敗に終わった。」

と評価している。

この評価は正しいのだろうか?

人文はこの文でも反対運動という範囲が広い用語のみを原因とし、他の要因を考慮することは無い。すなわち、結論ありきの議論でしかない。

人文が挙げた4闘争・事件のうち、砂川を除けば飛行場とは関係が無いように素人の私には見える。浅間山妙義山にジェットが飛ぶような飛行場を作るのは難しいと、土木とは無関係の、私の目には映る。そもそも浅間山は活火山だ。ちなみに米イエロストーンは1872年に国立公園になった。

また、横田と立川は近い。時代はプロペラ機からジェット機に変わりつつあった。当時のレシプロレベルの航空管制からするとどうなのか? 砂川闘争は人文によれば1957年。日本は占領から脱却していた。米軍も政府も地主に「どけどけ」と強制できない。拡張用地の取得費用はどのくらいだったのだろう?取得と建設に要する年月はどのくらいかかったのだろう?

そうそう、ジェット機はプロペラ機より価格が高い。予算に制約があれば飛行隊の数は減らせねばならない。立川に置けるほど飛行隊の数はあったのか?

横田基地の拡張以外を取りやめたのは世界情勢の変化とそれに伴うアメリカの世界戦略の対応、基地拡張に伴う時間と経費などの問題からではなかったのか? 当時の日本は貧しく、思いやり予算は無かった。

戦略の変化を考えてみる。

日本を占領した時の基地の配置は日本を制圧するためのものだった。機動力が高い海兵隊を名古屋港には近いが、海が無い岐阜に置いたのもそれが理由ではないか。

その後朝鮮戦争があり、それに対応した配置変更があった。

対ソ戦を考えた場合、日本本土の基地はソ連爆撃機の脅威にさらされる。三沢のような前進基地は維持するとしても、主力を近傍、そう、「米領」沖縄に引き下げることに軍事的合理性がある。ちなみにソ連は1949年に核実験に成功した。沖縄に近い中国共産党の海空軍?笑

更に、人文にとり恐らく都合が悪いから触れていないのだろうが、国共内戦があったし、1954年~1955年には第一次台湾海峡危機も発生した。海兵隊を岐阜から沖縄へ移すことにも軍事的合理性がある。岐阜の基地から海兵隊を台湾へ移動させるには時間がかかる。時間が掛かれば共産党軍は台湾に橋頭堡を築いてしまう。

 

更に付け加えるなら、仮に、海兵隊が岐阜から出て行った理由が反基地闘争だとしても人文が挙げた例の中には入っていない。これは人文の主張を弱める。

人文が例示している闘争・事件の年のうち1953年は高度成長の前の前。経済白書が「もはや戦後ではない」と感極まったのは1956年である。所得倍増計画池田勇人が総理になるのは1958年なのだ。基地経済に依存していた人も多かった。日本全土が基地反対に浮かれていたわけではない。

 

この後、人文は誤魔化しの仕上げに入る。

ところで。

2点差の野球の試合の9回の裏。疲れが出てピッチャーは乱調気味。バントで塁に出した後、三振、四球、三振、四球で満塁。次のバッターが満塁ホームランで逆転サヨナラ。

この時のヒーローは、四球を選んだ選手の一人か? ホームランを打ったバッターか?

 

母親と幼児がお散歩。道は狭い。幼児は「だっこ」「だっこ」とせがむ。母親は取り合わない。車が道の向こうから結構なスピードを出して来た。母親は幼児を抱き上げた。

母親が幼児を抱き上げたのは、幼児がせがんだからか?

 

人文は、元国防次官補ナッシュの米軍の海外基地の検討レポートを引用し、でたらめではないが、適当にでっち上げた訳文を付して誤解を誘っている。

調査は1956年に開始され、レポートは1957年に出た。人文が例示するジラード事件(1957)、砂川闘争(1957)は人文が記した1957年という時期からして、1957年に出たレポートに影響を与えたのか?

しかも、人文はナッシュは「米軍の海外基地」の検討をしたと書いている。米軍の日本基地の検討をしていたのでは無い。ナッシュは世界戦略に重点を置いたと考えるのが自然だ。

 

レポートで原因を列挙するときは重要な順に並べる。先の野球の試合のレポートなら最後のバッターの名前が最初に来る。四球で出た選手の名前は後に回される。

下記R1にある人文の適当にでっち上げた訳(=「米軍基地の日本からの撤退への圧力」(後述))からすると、ナッシュの認識では、圧力を構成するものは「日本のナショナリズム中立主義、核への恐怖の高まり」であり、「反基地運動」ではない。

当時の反基地闘争にはソ連の手先である社会党共産党が関わっていると認識されていた。反基地闘争にはテルミドール反動やナショナリズムの要素もあったが、ソ連に国を売るナショナリストは多くはない。満州からの引揚者、抑留された軍人の関係者、真岡の女性電話交換手自決のエピソード、ソ連の卑怯な参戦を見ればそれは明らかだ。

尚、ソ連や中国に違法に抑留された人々に対し、ソ連と中国は洗脳を行なった。人文が挙げた例の時期、1953-1957年は抑留された人々の帰還時期と重なる。

 

人文の(意図的な)大誤訳を示す。

R1の原文を見ると、ナッシュは圧力がかかる先として真っ先に離脱(disengagement)を挙げてる。意図的だろうと判断するが、人文はこれを訳してない。原文には”pressures for disengagement and for having …”(下線は私)と”for”が二つ存在しているのに。

ナッシュは日本がアメリカと縁を切りたがっている(disengagemant)と恐れていたように私には見える。

また、人文は”Increasing Japanese nationalism, neutralism and atomic fears”を「ナショナリズム中立主義、核への恐怖の高まり」と訳したが、ほとんど誤訳。付番して明確にするとこの訳では

1.ナショナリズム、2.中立主義、3.核への恐怖の高まり、

と読み取りうる。原文は核への恐怖だけが高揚しているとは書いてない。ナショナリズム中立主義も高揚していたと書いてあるのだ。「ナショナリズム中立主義、核への恐怖によって高まっている圧力」の方が適訳である。

人文はここでも小細工をしている。人文流に訳すと、本来は

1.ナショナリズムの高まり(“Increasing Japanese nationalism”)、2.中立主義、3.核への恐怖

となる。

 

次に反対運動への反応だ。

R2を見るとナッシュがここで注意を向けているのは「反基地運動」だ。ナッシュの考えを要約すると、

基地を縮小すれば岸総理に飴玉をしゃぶらせるメリットがある、

だ。反基地運動は「苛立ち」(R3)を招く代物でしかない。

 

また、「米国を長期的な基地権の交渉で有利な立場にさせるだろう」は正確な訳では無い。”place the United States in a favorite position”は「好適なポジションを取れる」と訳すべきだ。

 

R1でも同様だが、何故、人文は”base system”の”system”を訳さないのだろう?

1957年のナッシュはsystemという概念を持っていた。2018年の人文にはシステムという概念がないのだろうか。名は体を表す。弁護士のような人文人士には理系用語であるシステムは難しすぎると見た。

 

R3でも誤訳があると思われる。

人文は

「さらに追加措置をとることで米軍基地が引き起こす苛立ちや摩擦を減らすことができるだろう…」

と訳している。だが、原文は”However”で始まっている。これは「しかしながら、追加措置をとることで米軍基地が引き起こす苛立ちや摩擦を減らすことができるだろう…」であり、

苛立ちの除去のために、米軍縮小以外の対案を示そうとしたように見える。

 

実験や証明で嘘はバレてしまう理系と違い、人文人士たる「リベラル」弁護士は良心に呵責を覚えることなく誤魔化しをする。

再度繰り返すが、反基地闘争におけるソ連の使嗾や外国人勢力-朝鮮人-の関与に人文は触れていないことにも注意。


(以下R1~R3の太字、明朝体、下線は記事。 “positon”、”oppositon’s”、”exetensive”はママ)

*R1「「日本のナショナリズム中立主義、核への恐怖の高まりは、米軍基地の日本からの撤退への圧力増大につながっている」(Increasing Japanese nationalism, neutralism and atomic fears are contributing to growing Japanese pressures for disengagement and for having the United States withdraw its extensive base system from Japan.)

*R2「「日本人の在日米軍基地縮小の望みをかなえれば、岸首相の地位が強化され、社会主義者反基地運動を弱め、米国を長期的な基地権の交渉で有利な立場にさせるだろう」(Meeting Japanese desire for reduction of US base system in Japan of our own volition strengthens the positon of Prime Minister Kishi, weakens the Socialists oppositon’s campaign against US bases, and will place the United States in a favorite position to negotiate for long-time base rights in Japan.)」

*R3「苛立ちの除去在日米軍基地の縮小計画が米軍駐留が引き起こす問題の緩和につながるだろう。さらに追加措置をとることで米軍基地が引き起こす苛立ちや摩擦を減らすことができるだろう…」(Removing Irritations: Present plans for exetensive withdraws of US forces from Japan will do much to alleviate problems arising from the US presence. However, the following additional steps might be taken to reduce irritations and points of friction resulting from US bases.)(原文は「沖縄法政研究」論文参照)」


(文中敬称一部略)