上野千鶴子は何故ハイヒールを全て捨てたのか あるO嬢の物語

「危ない!」

ヒールを何でもない敷石と敷石の隙間に引っかけ、野上は転びそうになり、若い女性にぶつかった。女性が支えてくれたものの、踏ん張りが効かず、野上は転んでしまった。恥ずかしさもあり、野上はお礼もそこそこでその場を離れた。

「この前も・・・・」

野上は振り返った。その時は歩道のガードに運良くぶつかりそこにすがれたので立ったままでいられた。けれど、くるぶしの痛みはしばらく続いた。

 

帰宅後、厚塗りの白粉

(野上は昔の人なのでファンデーションではなく「おしろい」と呼ぶ。流石に歌舞伎の女形のように白粉を水で溶き刷毛で塗るようなことはしていないが)

にヒビが入っていることを鏡で知らされた。繊細なスーツには、路面と擦れたのか、裂け目ができてしまっていた。

 

野上は社会科学の中でも現実離れしたイデアの世界で生きてきた。皺や斑点という現象をファンデで隠しイデアを創造してきた。

 

「もう、限界かしら・・・・」

ハイヒールは全部捨てると野上は決断した。スーツも諦めた。

「これも断捨離ね・・・・」

意識に「終活」は浮かばなかったが無意識は受け止めた。涙が白粉のヒビに染み込んだ。

 

(あーる(R)O嬢の物語、RO嬢の物語、老嬢の物語)