池上彰が「統計のウソ」を語ると扇動になる #イケガMeToo(前編)

(中編はこちら)

週刊文春2019/02/07の池上彰氏のコラム『池上彰のそこからですか!?』では『[「統計でウソをつく方法」とは]』と題して厚労省の統計ミスを扱った。

タイトルは編集部がしばしばつける。だが、今回は、少なくとも、池上の賛同を得た上でタイトルはつけられた。というのも本文に「表題のような名前の本を読んだことがあります」とあるからだ。そして本文を読むと池上は今回の統計の結果を「ウソ」と考えているようだ。

 

一般に「統計でウソをつく方法」とは統計データを使って行われる印象操作を指す。明石順平弁護士が実践している手法だ。池上もコラムで印象操作をしている。「統計でウソをつく方法」を見習ったのだろう。

 

なお、支那共産党が行っているような統計操作は「統計でウソをつく方法」では無く、偽装に過ぎない。

 

池上は第2段落で次のように書く。

厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査には驚きました。「アベノミクスの成果により給料が上昇している」というのは、統計のミスを隠そうとして修正した結果だったのですから。」

 

まず、政府は毎月勤労統計を給料上昇の尺度にはしていないと指摘しておく。下記上念司氏の指摘のように、雇用拡大局面では、全員の給料が増えても毎月勤労統計が示す平均が下がることがあり得るからだ。池上はここで嘘をついている。

逆に、民主党政権下のような雇用縮小局面では、全員の給料が下がっても、毎月勤労統計の平均は上がり得る。

 

池上は「「成果が出た」と胸を張っていた安倍首相が恥をかくことになりました」と書く。安倍総理は雇用拡大局面であるのに毎月勤労統計の平均給与があがったことなどを踏まえた上で「成果が出た」と胸を張った。

今まで、低成績の子が98点とったと胸を張ったけれど、採点ミスがあり、実際はいつも通りの48点だったことがわかった。この場合、子供は胸を張れない。でも、91点だったら? 私は胸を張って良いと思う。

また、採点したのは子供ではなく先生だ。子供は「恥をか」いたのでは無く、「恥をか」かされた、がより適切な表現だと思う。「恥をかく」とした池上の表現には悪意が感じ取れる。

 

アベノミクスの成果により給料が上昇している」には二つの要素がある。

1. 給料が上昇している。

2. 1.はアベノミクスの効果である。

池上は

アベノミクスの成果により給料が上昇している」のは「統計のミスを隠そうとして修正した結果」と書いた。即ち、「アベノミクスの成果により給料が上昇している」は虚偽と印象付ける文を作った。

ここで疑問となるのは上記1.と2.、或は、1.と2.の双方、いずれを池上は虚偽と印象づけようとしているのだろう?

池上はこれを明確にしていない。

 

仮に、給与が上昇していないとして、それは何によるものだろう?

狡猾な(鈍い?)池上はこれを明らかにしていない。上念司氏は次のようなモデルで各人の給与が上昇しても平均給与は下がることを示した。

2018年

A.30万円 B.30万円 C.0万円(失業中) 平均給与 30万円

2019年

A.31万円 B.31万円 C.10万円(就職) 平均給与 24万円

 

上記の上念モデルを次のように変更すると全員の給料が下がっても平均給料は上昇する。

2018年

A.31万円 B.31万円 C.10万円 平均給与 24万円

2018年

A.30万円 B.30万円 C.0万円(失業) 平均給与 30万円

 

これが民主党時代に起きたことだ。

 

次に注意しなければならないのは、厚労省の統計ミスには二つの側面があることだ。

一. 法令どうりに調査を行わなかったこと。

二. 統計学のミスで、母数を正しく扱わなかったこと。これにより統計データの精度が低下した。

 

池上は「統計のミスを隠そうとして修正した」とするが、「ミスを隠そうとし」たと池上が断ずる根拠は示されていない。私には二.の母数のミスを単に修正しただけにしか見えない。

 

続いて池上は

2018/06の「現金給与総額」は前年同月比で3.3%増という21年5ヶ月ぶりの高い伸び率は「ウソだったのです」とする。

この「ウソ」は正しい言葉づかいかなのか?

微妙な問題を孕むが「間違いだったのです」が適切だろう。

 

さてここで池上は真か偽の二値論理を使ってしまっている。「3.3%は間違い、以上」で終わりにしている。実に池上らしい。

私は実際にはどのくらいの伸び率で、それは何年振りなのか興味があるが、池上はそれを示そうとしていない。

測定を伴う理系文系科学は測定誤差が伴う。だから、二値論理だけでは仕事ができないのだ。次の池上の計算を利用すれば実際の伸び率の推定はできるのだが。

 

池上は「分かりやすくするため」誇張した数字を使って統計手続きのミスを示している。

前提として池上は

・従業員500人以上の事業所は全国約5000。

・内東京都1400

だけを示す。

続いて、まず、規則上の本来の姿を次のように示す。

東京 1400 平均給与 40万円

以外 3600 平均給与 30万円

(池上は「(平均給与が)こんなに差は出ないでしょう」と断ってはいる。)

平均 32.8万円

 

池上が示すところの違反した姿は以下。

東京  500 平均給与 40万円

以外 3600 平均給与 30万円

(池上は「(平均給与が)こんなに差は出ないでしょう」と断ってはいる。)

平均 31.2万円

 

ミスによる差を見ると32.8-31.2=1.6万円。

池上は以上の盛った架空の数字を使って律儀にも「1.6万円少なくなっていたのです」(下線は私)と驚いみせ、実際は今までも1.6万円高かったのですよと読者に印象付けて騙そうとしている。

ここで上記池上モデルの(意図的に導入した?)欺瞞を指摘しておく。

・平均を従業員500人以上の事業所数のみを使って平均を求め、影響が大きいように見せかけている。

 

勿論、政府は従業員500人未満の中小の事業所の従業員も数に入れている。それらの事業所も含めた調査数の公称は約33000。(ただし、実際はその内30000しか調べていなかった。)

 

池上は、全体の一部を使って計算して示すことで、繰り返すが、ミスの影響の大きさが過大に見せるようにしている。

 

より正確には次のようになる。

(以下では中小として25900を割り当てている。

25900は全調査数の3万から、500人以上の事業所で実際に調査した4100を減じた数。)

 

500人未満の平均給与を20万円とする。

 

[規則上の姿]

東京 1400 平均給与 40万円

以外 3600 平均給与 30万円

中小 25900 平均給与 20万円

平均 22.1万円

 

[違反した姿]

東京  500 平均給与 40万円

以外 3600 平均給与 30万円

中小 25900 平均給与 20万円

平均 21.5万円

 

(注意: 正しい平均は500人未満の事業所で働く人と500人以上で働く人の人数比による補正がなされるべき。

というのは、(法人を含まない)従業員5人以上(*1)の企業数約140万社の内従業員300人以上の企業は約1.8万社でしかないからだ。

また、「全体の従業員数4,794万人に対して、大企業は1,433万人、中小企業は3,361万人」(http://jobgood.jp/chusho)。この調査は企業単位で事業所単位ではないことに注意。9400人の従業員を持つ大企業でも各都道府県に200人ずつ配置していたら、500人以上の事業所には入らない。) 

(*1)厚労省 毎月勤労統計平成30年1月分結果確報を見ると5人以上従業員をもつ事業所を対象にしている。常用労働者5人以上の事業所は全国約190万になる(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450071&tstat=000001011791)。)

 

ミスによる差は6千円。池上が出した1.6万円よりは1万円も下がる。

 

中小の平均給与も30万円とすると、平均は各々30.5万円と30.2万円でミスによる差は3千円。

 

池上が敢えて(?)示さなかった今回のミスによって生じた誤差は、大きめに見積もって

(東京と、東京以外の従業員500人以上の事業所の平均給与の差)×(1-29500÷30000)

=(東京と、東京以外の従業員500人以上の事業所の平均給与の差)×0.02

である。

 

高橋洋一教授は、統計ミスの誤差 0.3% としている(https://www.youtube.com/watch?v=U9vu1OYq0dk)

 

繰り返しになるが、理系なら、この誤差率を使って「21年5ヶ月ぶりの高い伸び率」3.3%を評価する。ラフではあるが

3.3%×0.02=0.066%

なので

3.2%と評価する。

 

これは48点だろうか?

91点だろうか?